|
1.教室の歴史と現況
山形大学医学部産科婦人科学教室は昭和48年山形大学医学部設立と同時に発足しました。初代は廣井正彦教授で、生殖生理と不妊症治療の分野で大きな功績を残されました。とくに、体外受精―胚移植の分野では常に日本のリーダー的な研究と治療を続けてこられました。現在もその伝統は受け継がれ、不妊症治療と生殖の分野の研究は大切なテーマの1つです。 平成12年7月より大阪大学より二代目の倉智博久が着任いたしました。 現在は、教授以下講師3名、助手5名、医員4名、研修医7名、大学院生3名、留学生2名が在籍し、留学生を含めて計25名の教室です。臨床教室としては小規模な教室ですが、「医局員の和」を礎に「明るく元気」な教室で、日常臨床、教育、研究に日々精進しております。当教室の研究の概要を紹介します。
2.現在進行中の研究
[臨床的研究]
1)腫 瘍 当科は、婦人科がんの症例が豊富で、しかも本学の病理学教室は婦人科病理に大変すぐれていますので、術後症例について病理との定期的なカンファランスを行い、up
to dateながん治療を行っています。豊富な臨床例をもとに手術術式、化学療法剤や術後管理についての臨床研究を行っています。
2)中高年女性の健康のケア 閉経後は、更年期症状・泌尿器生殖器症状に加えて骨粗鬆症・アルツハイマー病・高脂血症や動脈硬化などの疾病が急増します。これらの疾患の診断・予防・治療について研究し、閉経後女性のQOLの改善を図りたいと考えています。@分子疫学研究:閉経後女性の疾病の発症や、エストロゲンなどによる治療に対する反応性には大きな個人差があります。この個人差をSingle
Nucleotide Polymorphism(SNP)を用いて解析しています。SNP解析はゲノム創薬につながる可能性もあるものと期待しています。A閉経後の動脈硬化に関する研究:われわれは閉経後女性では血管内皮機能が障害されることを明らかにしました。ところが、内頸動脈の内膜中膜に通常は病的な肥厚は観察されません。現在、血管の弾性度の指標となるPulse
wave velocity(PWV)を経時的に測定しています。閉経後、血管の弾性度の低下は血管内皮機能障害より遅れて生じ、女性ホルモン補充療法により改善することを明らかにしています。
3)不 妊 少子・少産の時代、不妊症治療は社会的にも重要な課題です。われわれは、積極的に腹腔鏡検査・手術を施行しそれぞれの病態に応じた治療をしています。また、伝統の体外受精―胚移植治療も積極的に行っています。
4)周産期@妊娠中毒症と血管機能:妊娠中毒症は重要な疾患でありながら、それを予知する方法は知られていません。われわれは、血管の弾性度の指標であるPWV測定が妊娠中毒症の予知に有用であるか否かを検討しています。A妊婦の痩せと肥満:近年、ダイエットブームで痩せた若い女性が増えています。われわれは、痩せ・肥満妊婦の周産期危険度を調査するとともに、妊娠中の至適体重増加量も検討しています。
[基礎的研究]
1)腫 瘍
@卵巣癌化学療法の薬剤耐性化のメカニズム:卵巣癌が抗癌剤に耐性となることが卵巣癌患者の予後を悪化させます。われわれは、第一選択の化学療法剤であるタキソールとカルボプラチンに対する耐性化に関与する分子を明らかにするとともに、その分子の機能を失わせる薬剤・遺伝子の効果をin
vivoで検討し、分子標的治療の開発を目指しています。
ASERMによる乳癌発症予防のメカニズム:ホルモン補充療法(HRT)は、乳癌の危険度を増やすことが欠点です。一方、HRTに取って代わると期待されるSelective
Estrogen Receptor Modulator(SERM)の1つであるラロキシフェンは乳癌の発症を強く予防しますが、その機構は明らかではありません。われわれは、ラロキシフェンが乳癌細胞において細胞の不死化に関与するテロメレース活性を抑えて細胞増殖を抑制することを明らかとしました。これはラロキシフェンのchemo-prevention効果の1つの機構であると思われます。また、HRTで使われるプロゲスチンの乳癌発症に与える影響とその機構についても研究しています。
2)中高年女性の健康のケアに関する基礎研究
エストロゲンやSERMが動脈硬化やアルツハイマー病の発症を抑制する機構を研究しています。
@エストロゲンの血管内皮細胞保護および血管平滑筋細胞の増殖抑制作用:血管内皮細胞においてエストロゲンおよびラロキシフェンは、サイクリンD1の発現を誘導し細胞増殖に導くことを明らかにしました。一方、増殖刺激下で合成型となった血管平滑筋細胞において、エストロゲンとラロキシフェンはMAPキナーゼの1つであるp38を介してアポトーシスを誘導し(non-genomicな機構)、細胞周期をG1期に停止させる(genomicな機構)ことにより、細胞増殖を抑制することも明らかにしました。

注)乳癌細胞であるMCF-7細胞にGFP(green fluorescent protein)-ER(estrogen receptor)αをトランスフェクションし、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、エストロゲン投与後のGFP-ERαの分布の変化を観察した。GFP-ERαは核内に均一に存在したが、エストロゲン(10−8
M)投与により核内分布が不均一な集積を呈した。
Aエストロゲンの神経保護作用の解析:遺伝子導入でエストロゲン受容体を発現させたPC12細胞において、エストロゲンとラロキシフェンは細胞の不死化に関与するテロメレース活性を増加させて細胞増殖を促進することを明らかとしました。現在、アルツハイマー病の原因となるβ-アミロイドの影響について検討を進めています。
3)不 妊 老化卵の受精率の低下は酸素ストレスによるものであることを明らかにし、酸素ストレスの阻害剤が老化卵の受精率の改善につながるか否かについて、in
vivo, in vitroで、細胞内Ca濃度の動態、Caオシレーションなどを観察し、検討しています。
|